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コラム_「中小企業においても法律に対する意識を高めるべきである」

株式会社アントレプレナーシップ研究所 代表取締役 原 憲一郎

 

この数年間,私がお手伝いをさせていただいている企業で,法律に係る問題(トラブル)に直面することが増えてまいりました。それは契約や取引に関するもの,雇用や労務に関するもの,クレームに関するもの,中には知的財産に関するものなど様々です。こうした中小企業を取り巻く法律に係る問題(トラブル)は,私がお手伝いをさせていただいている中小企業に限ったことではなく,中小企業全般にもいえることではないでしょうか……。

 

ところで,2018年4月30日付の日本経済新聞朝刊で,経済産業省が2018年4月に公表した「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」を引用し,日米企業の比較から,日本企業では,経営の根幹部分に法務部門の能力が生かされていないことが,新規産業において世界をリードする企業の創出で,米国に大きく遅れている一因として紹介されています。つまり,法務戦略において日本企業は米国企業に遅れをとっているということです。まずは,その一例を紹介します。

 

「法務部門の人数」は,米国企業が40~80人の水準であるのに対し日本企業は平均17.8人であること,「重要交渉への参加」は米国の82%に対し日本は44%,さらに「重要案件の変更」においては米国の100%に対し日本は60%(助言のみ)となっており,経営と法務部門の距離感の違いが浮き彫りになったと紹介されています。

 

さて,ここで取りあげられている日米企業は,主に大企業が対象とされているため,法務部門の位置づけについては,中小企業とは異なりますが,今回,あえてこの記事を紹介した理由は,中小企業の経営者はもう少し法律に対する意識を高めることが必要であることを述べたかったからです。

 

冒頭で述べたように,中小企業においても法律に係わる問題(トラブル)に直面することが増加をし,時にはそうした問題(トラブル)が企業の経営を危うくすることも少なくないからです。これは私の主観になりますが,中小企業の経営者は総体的に法律に対する意識の低い方が多いように感じます。言い換えれば,法律に対する意識の低いというよりは,関心が低いという方が適切かもしれません。もちろん,中小企業の経営者の中にも,極めて法律に対する意識の高い方が多くいることもお断りしておきます。そして,法律に対する関心の低い経営者に共通している点は,法律に係わる問題(トラブル)に直面してから,慌てて対応を検討し,すべてが後手になるばかりか,思わぬ損失を被るということが少なくありません。

 

ただし,このように述べると,中小企業においても顧問弁護士を雇うべき……と受け取られるかもしれませんが,決してそうではありません。もちろん,法律に精通した専門家を雇うことは,戦略的観点のみならず,防衛的観点からも有用であることは事実でしょう。しかし,弁護士のように法律に精通した専門家を雇うことは,費用も必要となることから,中小企業においては必ずしも容易なことでないことも事実です。

 

では,中小企業においてはどのようにすれば良いのかが課題となります。この点について私の個人的見解を述べると,まずは「経営者が法律に対する意識を高めること」に尽きると考えています。法律に対する意識が高ければ,経営者は自ずと自社の施策等について法的に問題が無いのかということに関心を持つようになります。そして,そこに問題等が存在する或いは存在する可能性のある場合には,外部の専門家を活用し,そうした問題を未然に防ぐか解決する行動をとるはずです。

 

また,外部の専門家は必ずしも弁護士のような法律に精通した専門家ではなくとも,公的機関における専門化の活用も有用な手段です。さらに,問題によって法律に精通した専門家が必要な場合には,法律事務所の有料相談(一般的には30分で5,000円程度)を活用することも一つの手段といえるでしょう。

 

こうした外部の専門家の助言を踏まえた上で,予め問題に対する対策を検討・準備しておくことで,法律に係わる問題(トラブル)から生じる思わぬ損失から経営を守ることも可能となるのです。

 

最後に,極めて重大な問題(トラブル)は別として,中小企業が直面する多くの問題(トラブル)は,予め検討・準備をしておくことで回避できることが多いと感じます。こうしたことからも,経営をする方は法律に対する意識を高める必要があると考えます。なぜなら,現在の企業を取り巻く環境は,昔と比べて法律に係わる諸問題に遭遇する危険性が高くなっているからです。

 

 

【参考】日本経済新聞朝刊,2018年4月30日。経済産業省,「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」,2018年4月。

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「会員限定:情報交換会」のご案内

主催:株式会社アントレプレナーシップ研究所

 

日 時:平成30年5月21日(月) 午後1時30分~午後4時30分

会 場:新宿文化センター 第5会議室

住 所:東京都新宿区新宿6-14-1

参加費:無料

定 員:20名(1社2名まで)

※会員限定とさせていただきます。

申 込:ホームページのお問い合わせフォームより、必要事項を入力の上、「セミナー申込」にチェックをした上で、お問い合わせ内容欄に「社名」「参加者名」を入力し、ご送信ください。ただし、定員に達し次第締め切らせていただきますので、予めご了承願います。

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コラム_「本来の使命を忘れた銀行(金融機関)は排除されるべきである」

株式会社アントレプレナーシップ研究所 代表取締役 原 憲一郎

 

私は以前のコラム「地域金融機関が生き残るための課題」(2017/11/01公開)で,2017年11月1日付の日本経済新聞朝刊を参考に,金融庁が地域金融機関の経営の持続性に着目し,より厳密に精査・検証するような政策を検討し始めたこと,そして今後は地域金融機関の「再編」や「廃業」がより加速することを紹介し,地域金融機関の「本来の使命」とは「地域経済を活性化させること」であると述べました。

 

しかし,2018年4月2日付の日本経済新聞朝刊では,銀行が貸倒引当金を減らし,全体の残高では不良債権問題でゆれた1998年の5分の1,いまやバブル期と同水準まで下がっているという記事が掲載されました。

 

そもそも貸倒引当金とは,銀行が企業などに貸し付けた資金が返済されない場合に備えて,銀行が積んでおく資金のことをいいます。つまり,貸付先の企業の経営状況に応じ,リスクが高くなるほど,多くの引当金を積むことになります。

 

引当金の計上は,銀行にとっては費用となり,利益を押し下げることになり,逆に,引当金を減らせば利益を押し上げることになります。

 

ただし,引当金を計上することが良いのか,或は悪いのかは一概に述べることはできませんが,上記の記事では「取引先企業への融資を渋ったり引き揚げたりして(引当金を)減少している場合もある。」「自らの顧客基盤を失い,ビジネスモデルに悪影響を与える。」と指摘しています。

 

そして,こうした銀行の対応に対し,「金融庁はリスクを過度に避ける銀行の姿勢に警鐘を鳴らし,取引先の育成・支援に取り組むよう促す。」「金融庁は18年年度末に,融資先の区分(「正常先」「要注意先」「破綻懸念先」)に応じ貸倒引当金を積む根拠となっている金融検査マニュアルを廃止する。」「画一的ではなく将来性やリスクなど企業の中身を分析し,返済可能性を見極める銀行の本業が問われる。」と記されています。

 

金融庁がこれほどの対応に出る背景には,銀行が本来の使命を忘れ,自らの保身だけに走ることにより,地域経済の発展,引いては日本経済の発展の足かせになっているからではないでしょうか。どれだけ「見ため目体裁のよい業績」を示したとしても,それはあくまでも「仮想」でしかなく,いずれは衰退の道を辿ることは容易に想像ができます。

 

私は常々,銀行(金融機関)の本来の使命は,「地域経済の活性化」であると主張してきました。しかし,未だにこのような状況が続くということは,そもそも「銀行(金融機関)には経営状況・事業計画・リスク分析を適切に判断できる人材が欠如していること」,そして「銀行(金融機関)の本来の使命に対する認識が欠如していること」に他ならないと考えます。

 

したがって,こうした銀行(金融機関)は,巨額の税金を投入する以前に,早く市場から撤退すべきと思います。地域経済や日本経済の発展のために……。

 

 

【参考】日本経済新聞朝刊,2018年4月2日。

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