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コラム_「中小小売業においてもキャッシュレス化を推進すべきである」

株式会社アントレプレナーシップ研究所 代表取締役 原 憲一郎

 

2019年4月1日付の日本経済新聞朝刊で,「ローソン全店セルフレジ」という見出しの記事が掲載されました。内容を要約すると「加盟店から上がるなど人手不足が深刻さを増すなか、店舗運営を省力化して生産性を高める」ことが目的とされており、今年(2019年)の10月までに14,000店にセルフレジを導入するそうです。さらに記事の中には、「レジの作業時間は最大で1店舗あたりの3割に相当する5時間を減らせると見込んでおり、人手不足に対応できる」「支払には現金は使用できず、電子マネーなどキャッシュレス決済に限る」とも記されておりました。

 

確かに、現在の我が国において、「人手不足」は深刻な課題であり、セルフレジやキャッシュレス化はこうした課題への対策としては、有用な手段と言えるでしょう。そして、こうしたセルフレジやキャッシュレス化は、今後、ますます普及して行くものと思います。なぜなら、大手小売業に限られず、中小小売業においても「人手不足」は深刻な問題だからです。

 

経済産業省は、2025年まで(ただし前倒しを検討中)にキャッシュレス比率40%(現時点では約20%)を目標に掲げ、様々な施策を講じています。その背景には、「人手不足への対策」「インバウンドの取り込み」「新産業の創造」等の様々な理由がありますが、とりわけ中小小売業においては、人手不足対策の観点においても、キャッシュレス化を進めるべきと考えます。

 

しかし、中小小売業がキャッシュレス化を導入する際に躊躇する最も大きな要因としては、「業者へ支払う手数料」が挙げられます。一般的には3%~4%程度と言われており、そうした費用がキャッシュレス化への障壁となっています。なぜなら、業者へ支払う手数料は売上高総利益、つまり粗利益から支払うことになるため、収益の圧迫につながります。さらに、業者から入金されるまでにおける期間も問題となります。なぜなら、現金商売であれば、商品を販売した時点で現金が入りますが、キャッシュレス化の場合には業者によっても様々ですが、入金までの間には一定期間があるため、その期間の資金繰りも課題になります。

 

こうした課題があるにも関わらず、私が中小小売業においてもキャッシュレス化の推進を強く勧める理由は、キャッシュレス化から得られる情報を活用することにより、業者へ支払う手数料以上のベネフィットを得ることが可能であり、さらに工夫次第では業績を向上させることが可能だからです。

 

たとえば、キャッシュレス化を導入することにより、「誰が」「いつ」「何を」買ったのかという情報を把握することができます。もちろん、一部の店舗ではポイントカードでこうした情報を得ているところもありますが……。しかし、私がもう1つ注目したいことは、消費者行動の変化です。ある調査によると、コンビニエンスストアやスーパーマーケットでのキャッシュレス比率は都道府県によっても異なりますが、全国平均で約40.3%という結果が示されています。言い換えれば、消費者行動においては、もはやキャッシュレス化は生活の一部として定着しており、今後はさらにキャッシュレス化は普及して行くと思います。

 

では、消費者情報の取得と消費者行動の変化を踏まえれば、結論から述べると中小小売業もキャッシュレス化に取り組むべきということが私の見解です。業者への手数料や入金までの資金繰りは確かに大きな課題かもしれません。しかし、マイナス思考で考えるのではなく、プラス思考で考える。つまり、キャッシュレス化を通じて業績を伸ばし、利益を大きくすることを考えれば良いのです。なぜなら、「誰が」「いつ」「何を」買ったのかという情報を把握することは、今後の販売戦略には極めて重要な要素ですし、消費者行動の変化はキャッシュレス化への大きな追い風となるからです。

 

したがって、中小小売業の経営者の方々においても、目先の課題(手数料や資金繰り等)ばかりにとらわれず、如何にしてキャッシュレス化を活用しつつ、売上高や利益を大きくするかに発想の転換をすべきではないでしょうか。

 

 

【参考】日本経済新聞朝刊,2019年4月1日。