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コラム_「経営理念は決意でもある」

株式会社アントレプレナーシップ研究所 代表取締役 原 憲一郎

 

先日,ある会社の総会へ出席する機会がありました。その総会は,取引先を対象に開催された総会です。実はその会社は,以前のコラムでも紹介した「社長がこれまで信じて付いてきてくれた職員や取引先をも見捨て,真っ先に逃げてしまった会社」です。

 

そして,その総会の直前に,現経営陣の方から,どのような手順で総会を進めれば良いのかの相談を受けました。当然のことながら,出席者の方々が関心を持つことは,これからその会社がどの方向に進もうとしているのか,言い換えれば,「会社の方針」を聞きたいことだと思います。現経営陣の方も,そうした内容の話しをしようと考えられていました。しかし,私は「会社の方針」を説明することも重要ではあるけれども,それ以前に会社の使命でもある「経営理念」を説明し,決意表明をすべきではないかと助言をしました。なぜなら,その会社には「経営理念」が無かったからです。

 

「経営理念」を簡単にいえば,会社の中で共有されている「価値」,つまり「望ましいものの体系」です。経営理念には,企業内における「統合機能」「従業員の動機づけ機能」「労使関係の安定機能」の3つの機能があると言われていますが,私はそれ以外にも事業や経営に対する「使命」や「決意」でもあると考えています。

 

少し話しは変わりますが,商業に携わっている経営者であれば,一度は「正しきによりて滅ぶる店あらば,滅びてもよし,断じて滅びず」という言葉を聞かれたことがあると思います。この言葉は,元花王の常務取締役である新保民八氏の有名な言葉です。これは私なりの解釈ですが,「お客様を欺いて利益を得るよりも,正直で正しい商売に徹しよう。それによって店が潰れるのであれば,それでも良い。しかし,意地でも滅びるものか」というように理解しています。

 

話しを元に戻すと,冒頭で挙げた会社には「経営理念」が無かったため,現経営陣と一緒に経営理念を考え策定しました。新保民の言葉を思い浮かべながら…。そして総会の場で,経営理念の説明と決意表明をすると,多くの出席者からは賛同を得られましたが,一部の方からは「そんなことは当たり前だ。今頃,そんな話しをするのはおかしい。だから経営がおかしくなるのだ。」という意見がありました。後で聞くところによると,その発言をされた方は,いつも総会を乱す常連の方とのことでした。

 

私はたまたまその総会に出席していたのですが,その方の発言に対してどうも納得が行かなかったので,次の2つの質問を投げかけました。1つ目は「あなたの(経営)理念は何ですか」,そして2つ目は「今のご発言の目的は何ですか」。しかし,その方からは曖昧な回答しか無く,意味不明な言葉で濁されてしまいました。ただし,総会に出席された多くの方々にとっては,前社長が逃げてしまった会社を,現経営陣がそれまでは無かった「経営理念」を策定し,さらには決意表明をしたことで,理解を得ただけではなく,今後も安心して取引を継続しようと感じていただけたと映りました。

 

真面目に正しい商売をしていても,潰れる店があることも事実です。しかし,大切なことは新保氏の言葉を借りていうならば,「断じて滅びず」という「決意」ではないでしょうか。「決意」があれば「勇気」も沸いてきますし,「変化」へ対応する「決断」も可能となります。潰れて行く店や会社に共通している事項の1つは「断じて滅びず」という「決意」と感じてなりません。「正しきによりて滅ぶる店あらば,滅びてもよし,断じて滅びず」という言葉を,商業や事業に携わる経営者の方々にとっては,非常に奥深い言葉だと思います。