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コラム_「消費行動の変化と競合企業への対応」

株式会社アントレプレナーシップ研究所 代表取締役 原 憲一郎

 

企業にとって勝ち抜くための条件は、「消費者のニーズを的確に把握し、自社の製品やサービスを、提供方法も含めてそのニーズに適応させて行くこと」です。しかし、その消費者ニーズも、消費者の価値観の多様化により、的確に把握することが難しくなっていると言われて久しく、これまでは業界のトップであった企業が突然、衰退して行くという事例は数多く見られます。

 

2017年9月8日付の日本経済新聞朝刊では、「ネット消費大型店をのむ」という見出しの記事で、玩具販売大手のトイザラス(米国)が、2018年に返済期限を迎える約440億円の負債について、支払い不能になった場合に破産法適用を申請し経営破綻する可能性があるという報道がされました。(ただし、現時点ではあくまでも報道されたということのみで、実際にトイザラスが破産法適用を申請するか否かは分かり兼ねることを、予めお断りをしておきます。)

 

トイザラスと言えば、世界で展開している玩具大型量販店のチェーンストアです。日本でも「日本トイザらス」として、玩具販売では高い知名度を持っています。今回、トイザラス(米国)が経営破綻する可能性があるという報道がされた背景には、アマゾンを中心とするネット通販の成長が挙げられています。

 

さらに、記事の中では「サンフランシスコに本社がある米玩具ベンチャーでは、16年末はトイザラスよりアマゾン経由の販売が多かった」とも紹介されています。確かに、消費者の立場に立って考えると、同じ商品を購入する場合、わざわざ店舗に出向くことなく商品が配送され、さらに低価格で購入することができるとなれば、通常はネット通販を利用することと思います。

 

では、トイザラス(米国)も店舗販売からネット通販へ業態転換をし、低価格販売へシフトすれば良かったのか……という疑問が浮かびます。しかし、この点について私見を述べさせていただくと、私の意見は「No」です。その理由は次の2点です。

 

まず第1点は、後発企業がその業界で一定のシェアを獲得するには、提供する商品やサービスが他社と比較し、相当の優位性を有していることが条件となることです。つまり、トイザラス(米国)の場合、取扱商品の多くはメーカーからの仕入商品のため、商品による他社との優位性を明確に打ち出し難いということです。

 

第2点は、後発企業にとって、提供する商品やサービスが他社と比較し、相当の優位性を有していない場合、その業界で一定のシェアを獲得するには、相当の資金力が必要となることです。たとえば、スポーツ飲料を例に挙げると、大塚製薬が「ポカリスェット」を発売した当時、スポーツ飲料というカテゴリーに馴染みの薄い日本人にとっては、なかなか受け入れ難い商品でした。しかし、スポーツ飲料というカテゴリーが次第に確立されると、今後はコカ・コーラが「アクエリアス」を投入し、膨大な宣伝広告費を注ぎ込み、一定のシェアを獲得するに至ったという話しは記憶に新しいところです。

 

では、上記の2点を踏まえ、トイザラス(米国)は如何なる対応をすべきであったのでしょうか。この点について、答えは決して1つではありませんが、以前のコラムでも紹介した「ジャパネットたかた」の創業者である高田明氏のコメント(2015年10月15日付の朝日新聞朝刊)が参考になります。高田氏のコメントは以下の通りです。

 

「世界規模で展開するアマゾンは、確かに巨大です。しかし、アマゾンだけでは世の中を背負っていけないと考えています。ジャパネットとアマゾンのビジネスのやり方は違う。アマゾンのサービスに幸せを感じるお客様もいれば、ジャパネットに幸せを感じるお客様もいるはずです。」

 

「ジャパネットは、アマゾンのように同じジャンルの膨大な種類の商品を用意するのではなく、私たちが商品を選んでテレビの通販番組などでその価値を伝えています。その際には単に機能を説明するだけでなく、その商品を買えばふだんの生活がどう豊かになるのか、という点を伝えることに心を配っています。」

 

上記のコメントで参考になる点は、ジャパネットたかたは、アマゾンと同じネット通販という業界で、しかも同様の商品を取り扱っているにも関わらず、「①誰の(ターゲット)の、②どのようなニーズに対して、③何(製品やサービス)を、④どのように提供するのか(方法)」ということを明確にしていると言うことです。

 

高田氏のコメントを踏まえると、トイザラス(米国)はアマゾンと同じ市場(消費者)を対象とするのではなく、トイザラス(米国)に幸せを感じる市場(消費者)を明確にすることが、アマゾンとの差別化を図るためには先決であると考えます。なぜなら、トイザラス(米国)に幸せを感じる市場(消費者)も必ず存在しているはずだからです。

 

その上で、設定した市場(トイザラスに幸せを感じる消費者)のニーズに対して相応しい商品を、相応しい方法で提供すること、すなわち「ビジネスのやり方」を再設定することが必要であると思います。その結果として、店舗販売からネット通販への業態転換が必要であるならば、それは適切な選択と言えるのではないでしょうか。

 

最後に、今回はトイザラス(米国)が経営破綻するのではないかという報道を取り挙げましたが、企業を取り巻く環境の変化が激しく、とりわけ消費行動の変化が激しい時代だからこそ、企業が勝ち残って行くためには「①誰の(ターゲット)の、②どのようなニーズに対して、③何(製品やサービス)を、④どのように提供するのか(方法)」ということ、つまり「ビジネスのやり方」を明確(時には再設定)にすることが重要と言えるでしょう。

 

 

【参考】

2017年9月8日、日本経済新聞朝刊、を参考。