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コラム_「営業マインドによるビジネスモデルの革新」

株式会社アントレプレナーシップ研究所 代表取締役 原 憲一郎

 

百貨店のビジネスモデルといえば,欧米の購入ブランドを数多く誘致し,集客の柱とするのが一般的です。しかし,最近では百貨店の売上高は,スーパーマーケットやコンビニエンスストアと比較しても,低迷しているのが現状です。百貨店も様々な施策を講じているものの,従来からのビジネスモデルから脱却することが出来ず,苦戦を強いられています(たとえば,百貨店の売上高はピーク時と比較し約4割減少しています)。ところで,2017年12月25日付の日本経済新聞朝刊で「ブランドなき『伊勢丹』」という見出しの記事で,静岡伊勢丹が紹介されました。まずは,この記事の一部を紹介したいと思います。

 

「静岡駅の前には松坂屋がありルイ・ビトン,カルティエ,ティファニーなど高級ブランドが顧客を抱える。静岡伊勢丹はそこから商店街を歩いて約10分。まさに刀折れ矢尽きた状態だったにもかかわらず,5期連続の増益を達成した。なぜか。静岡伊勢丹が掲げているのは『日本一の地域密着百貨店』(雨宮潔社長)……同じ手法は静岡では無理。地元の生活者が知っていそうでいても魅力を伝えきれていない商材に焦点を当てた」。

 

「例えば遠州織物。肌触りのよい風合いは欧米のファッションショーでは常連だ。そのストールや弁当袋など200点以上を用意して,若い世代に訴えた。……イチゴ生産などを手掛けるなかじま農園は静岡伊勢丹との取引が評判となり,パンメーカーや地元小売業との商談が舞い込んだ。……静岡県はサッカーが盛ん。早朝の練習が至る所で行われ,朝食時間は日本一早い。送迎役の保護者が簡単に用意できるメニューを提案。これが当たった。新たな消費者を呼び込めた。」

 

そして,こうした発想が生まれる背景には,従業員全員の「営業マインドの高さ」にあると紹介されています。たとえば,営業会議には総務部門の従業員が最初から出ているため,渉外担当者の初動が早いこと等が挙げられています。

 

では,なぜ静岡伊勢丹は,従来型のビジネスモデルを打ち破ることができたのでしょうか。よく「企業は人なり」という言葉を耳にします。しかし,百貨店といえば,他の業態と比較し,どちらかといえば変化への対応に消極的な印象を持ちます。にも関わらず,静岡伊勢丹がビジネスモデルを革新することが出来た理由を一言でいえば,トップの意思決定,つまり「決意」であったと思います。従来型の百貨店のビジネスモデルが地方では通用せず,勝ち残るためには変わらなければならないという状況下であったからこそ,トップも決断をすることが出来たといえるのではないでしょうか。

 

さらに特筆すべきことは,静岡伊勢丹の場合,従業員の多くは地元出身者とのことです。そして11月末,通常なら商品紹介が主体の配付誌で,店で働く取引先従業員ら約160人の笑顔の写真,暮らしにこだわる一口コメントを掲載したそうです。こうした試みも,静岡伊勢丹が掲げている「日本一の地域密着百貨店」の表れであるといえるでしょう。

 

上記の記事から学ぶことは多くありますが,ここでは3点に絞って述べさせていただきます。まず第1点は,百貨店というビジネスモデル,いわば従来の延長線上に事業を考えるのではなく,市場,つまりお客様に焦点を当てて取り組んでいるということです。百貨店だからといって,他の百貨店と同じ従来型のビジネスモデルを採用する必要性は無いということです。もちろん,基本から逸脱してはなりませんが,静岡伊勢丹の場合,従来型のビジネスモデルのままでは,いずれ閉店か廃業の道を辿ることになっていたでしょう。しかし,生き残るために従来型のビジネスモデルから脱却し,新たなビジネスモデルへ挑戦したからこそ,今日の成功があったといえます。

 

第2点は,最近では電子商取引が普及し,その業績も伸びていますが,私の個人的見解から述べると,どれほど電子商取引のような無店舗販売が普及しようとも,有店舗販売の役割は十分にあるということです。その際に重要なことは,消費者と店(商品)をつなぐ接点は「人」であるということです。そこで重要となるのは,消費者と直接接するのはトップ(社長)でも幹部でもなく,最前線の従業員(人)です。「企業は人なり」という言葉を良く耳にしますが,そこで重要となるのは,消費者と直接接するのはトップ(社長)でも幹部でもなく,最前線の従業員(人)ということです。先にも述べましたが,「企業は人なり」,つまり店を支えているのは従業員(人)に他なりません。そして,その人的資源が有する力を発揮することがでれば,自ずと活路を見出すことは可能であると思います。すなわち,その従業員(人)の対応如何で,消費者の満足にも影響を与え,その時の満足度によって,次回来店していただけるか,もう他店に流れてしまうかが決まるからです。したがって,如何にして従業員(人)がやりがいを持って,消費者に接することができるような環境を作るかが重要なことと考えます。

 

第3点は,トップの「決断」(決意)です。組織が大きくなると,仮に1店舗のトップではあっても,その上層部の方針に従わざる得ないことが少なくありません。しかし,静岡伊勢丹の場合,社長の「決断」(決意)が「営業マインドによるビジネスモデルの革新」へと導いた典型的な事例といえるでしょう。記事の中では「店が地元産業の孵(ふ)化器の機能を担う」とも記されているように,「店は客のためにある」という原点を,この事例から今一度,再考する必要があるのではないでしょうか。

 

 

【参考】日本経済新聞朝刊,2017年12月25日。